「成功する医師開業」10原則(2)

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K先生
K内科クリニック 開業7年目
東京23区内地下鉄駅近く
関西出身 国立大学卒

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N先生
N内科クリニック 開業3年目
東京近郊駅徒歩20分の住宅地
首都圏出身 国立大学卒

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T先生
T眼科 開業2年目
東京都心一等地のオフィス街
四国出身 私立大学卒

開業時は薬品卸を徹底的に使え

N先生
それから患者さまを引きつけるために必要なのは、なんといっても立地です。
K先生
やっぱり1階が入りやすいからいいのは当然だと思います。内科の場合、お年寄りが多いので、1階と2階の差は大きいですよ。
T先生
セキュリティーの問題があるから1階よりも2階のほうがよいという考え方もあります。
それと「腕前よりも駅前」という説もあります。今は病院の勝ち組みと負け組みの差が激しくて、結果として駅前でも患者さまが来ないところがあるのですが……。
N先生
必ずしも駅前がいいとは限りませんね。家賃が高いし。
K先生
競合の問題もありますね。わたしの場合も半径50メートル以内にすでに内科が3つある地域に参入しましたから。また、「ここはライバルがいない」と思っていても、いつ落下傘で降りてくるかわかりませんし。
N先生
それから開業の時には、お金があることがわかっているので、いろんな業者が集まって、金をむしり取ろうといろんな提案をしてきます。でもほとんど無意味ですね。彼らは自分たちのことしか考えてませんから。とにかく必要最低限のものしか買わないことです。それでいいんです。
K先生
業者のいうことは聞くなと。有線放送も、自分で頼めば安いのに、業者の言い値だとすごく高かったりします。そもそもあんなもの入れなくても問題ないですよ。
T先生
コンサルティング会社という名の内装業者は相手しちゃいけません。わたしの場合はローリスクでやりたいと思っていましたから、内装ははじめ金をかけず、後から少しずつ改善していきました。
いま考えてみると、最初にお金をかけておいたほうが得だったかもしれませんが、内装屋の話はまったく聞かなかったし、保健所の認可も自分で通って取りに行きましたからね。自分で深く考える癖がついたので、それはよかったかと思っています。
N先生
わたしは開業の申請は薬品卸さんと一緒に行きましたよ。診療圏調査なんかもお金取られないし。コンサルタントより絶対いいですよ。200万円くらい浮くでしょう。
K先生
薬品卸さんはタダで開業支援やってくれますからね。資金計画なんかも見てくれるし。
T先生
そうそう、不動産を見つけるときだけは、薬品卸さんに不動産業者を紹介してもらったんです。家主や他のテナントとトラブったときは、家主にいうのではなく薬品卸さんに話を持っていくと解決が早かったですよ(笑)。
N先生
それで問屋さんと一生の付き合いになるかというとそうでもなくて、裏切っている先生も多いみたいですね。そんなの彼らにしてみれば織り込み済みですから。それに医療機器を売る人と、薬品の営業の人の部署が違いますから関係ないんです。べったり付き合う必要はないということです。
あと開業で気になるのは資金のことですが、皆さんはどうでしたか? わたしは国民金融公庫と、医師会とつながりのある信用組合で借りられましたが。
K先生
医師会は東京は貸してくれませんよ。それと大切なのが運転資金です。おそらく人件費と家賃分の6カ月分くらいは必要でしょう。最低2000万円はみておかないと。しかしこれがなかなか最初は理解できないですよね。
わたしは最近また銀行借入を増やしたのですが、なかなかたいへんです。
T先生
それで思うのは、開業資金を借りたらそれでベンツを買っちゃう人が多いんですよ。開業と同時に新型のBMWに乗ってる人。これ、まちがってます。ベンツを買わずに運転資金に回すべきです。車はクリニックが離陸してから買えばいいんです。開業医なんてほんらい地味なもんですよ。

開業とは、経営者になることと見つけたり

N先生
そんなに儲かりませんよね、今。
それから看護師さんなんですけど、わたしの場合は開業するときに、以前国立病院で働いていたときに仲のよかったおばさんに来てもらったんです。もともと人間関係が合うということと、あとわたしは「君臨すれども統治せず」なんです。
K先生
どういうことですか?
N先生
事務のことは事務さんに、看護のことは看護師さんに任せています。わたしはあまり口出ししません。でも拒否権は持っています。
「ああしろ、こうしろ」とは言いませんが、「それは嫌だ」と言えるということです。拒否権を失ったらおしまいですが、「ああしろ、こうしろ」と口を出すとまたおかしくなってきちゃうんですよ。だから命令はしません。でも拒否はします。これがわたしの「君臨すれども統治せず」です。これでうまく回ってますよ (笑)。
T先生
ウチの場合は、やっぱり知り合いに頼んで人を集めていたのですが、最初の1カ月で看護師さんが全員辞めてしまいました。そのころ患者さまが一気に80人/ 日くらいに増えまして、しかたがないので親戚に2日間応援を頼んで、なんとかしのぎました(涙目)。
この最初の大きなつまずきはとても勉強になったと思います。その後看護師さんをすべて派遣にしました。コストがかかりますが、とてもうまくいっています。
N先生
急に患者さまが増えると、対応するのはたいへんですよね。
K先生
派遣は高くつきませんか。それにあまり働かないんじゃないですか?
T先生
とんでもない。派遣のみなさんは、病院に2-3年勤めた経験があるので基礎的な教育は終わっていて、挨拶語をきちんとできますし、わたしはそういう人材を選んでいます。うちは場所が都心にあって土曜日曜が休みなので、来てくれますよ。それとわたしが看護師さんを雇っているわけじゃなくて派遣会社を雇っていることになるので、爪の長い看護師さんがいたら派遣会社のほうに文句をいって注意してもらいます(笑)。
それからウチは、応援のドクターをMRTさんに頼んでいます。
K先生
なるほど。人件費はみんな頭の痛いところですが、人件費を抑える決め手は、若い看護師さんを雇うことにつきると思います。高齢になるほど給料は高くて文句をいうし、動かなくなりますから。しかし若い人はなかなか見つからない……。
T先生
それから、「いい事務長」というのが、まったくいないんですよね。奥さんに頼むしかないか。
N先生
院長が兼任するしかないですね。でも、だからこそ2軒目の開業がむずかしいということなんです。
K先生
この辺、昔とは違ってきてますよね。
N先生
あと、病院を回るMRとクリニックを回るMRが、こんなに違うとは思いませんでした。病院に来るMRはちゃんと薬の情報をくれるのに、ウチに来るのはただの営業マンですから(笑)。
それから医療機器に不具合が出たときは、医療機器メーカーに不満をいっても相手にしてもらえませんが、医療機器卸にいうとちゃんと動いてもらえますね。
T先生
ウチには医療機器メーカー出身の看護師がいますよ。
それから薬屋さんが持ってくる不動産物件は、自分たちのやっている薬局の近くの物件か、自分たちがまだカバーしていない地域ですよね。そうすると新規開業は空白地域しか勧められませんから、自然と駅から遠いところになってしまいます。彼らに都合のいい場所を指定するわけで、儲かる地域かどうかはわかりません。ただし開業支援はすべてやってくれますから楽ではありますよ。
だけどそれでは、マネジメントの勉強にはならないですよね。開業って結局、経営者になることですから。

医療過誤のリスクをどう減らすか

N先生
それからね、「開業医は厚生労働省の言う通りやっていればいい」という考え方もあります。厚労省に立ち向かってもしかたがないんですよ(笑)。流れには乗ればいいんです。CHANGE OR DIE. 「自分が変わるか死ぬか」です。われわれ開業医は小回りができないと。
厚労省もわれわれをつぶすつもりはないでしょう。2025年までに医療給付費は45兆円に伸ばすと言っています。自己負担も含めれば医療費は70兆円以上になるでしょう。つまり「人口比にすれば今のアメリカくらいの医療費は払う」と言ってるわけです。いま騒がれているようにそんなに医療費を抑制するつもりはないでしょう。だからコンサルのいうことを聞くよりは、厚生労働省のいうことを聞けということです。
T先生
でも厚生労働省も言うことが途中で変わったりしますからね。われわれにはとにかく、はしっこさが必要です。
それと重要なポイントとして、医療過誤のリスクをどう減らすかという問題があります。
外科系の場合、開業医は自分の実力が10であれば、処置でも、小手術でも6ぐらいのレベルまでしかしないのが適当ではないでしょうか。10の実力いっぱいの治療行為をやると、医療過誤を起こすリスクが高いと思います。忙しいときに、これはという患者が来ると、ミスしたら終わりですから、大病院に回すしかないと思うんです。ちょっと恥ずかしいですけど、しかたのないことだと思います。
K先生
悩むところです。例えば介護保険限度枠いっぱいの患者さまがいて、病院に連れていくにはケアマネージャーを頼まなければならない。しかし違う薬を使えば改善するかもしれないというとき、「リスクはあるけど、自分の実力以上のことをしてあげたほうがよいのでは」という葛藤もあったりします。入院病棟と開業では違いますし。
T先生
30代前半で開業する先生は、まだ6くらいの実力しかないかもしれません。そうすると恐いですね。やっぱり実力を10まで引き上げてから開業しないと。これ、内科は違うと思いますけど。
N先生
ええ、病院で研修していても症状の出た患者さましか来ませんから。でも内科医が診るのは症状が出る前の患者さまです。いってみれば、病院に来るのはフォークボールが打者の手前ですっと落ちて、ミットに収まる前の段階なんです。それに対して内科の開業医に来るのはまだピッチャーの手を離れる前の段階のボールで、カーブかストレートかわからないところでの判断を求められます。だから開業してから、症状の出る前の患者さまをたくさん診てスキルが上がっていくわけです。ですけどやはり、開業医は安全第一ですね(笑)。
MRT
たいへん実践的なお話でした。診療科によって一概にはいえないし、地域特性によっても異なるとは思いますが、開業を考えるドクターのご参考にしていただければ幸いです。

座談会番外編 医師不足……開業医のつぶやき

K先生
開業医として最近の医師不足で一番困るのは、救急患者がいても病院が受け入れてくれないことです。
しかたがないので、自分で知っている病院に片っ端から電話して、それでもだめなら救急ネットワークに頼んで、最終的にはかなり離れた場所の病院に受け容れてもらうという感じです。
あるいは僕らも救急車を頼むのですが、救急車の人もわかっていますから、「先生、自分たちで何とか探してください」と言われちゃうんです。これ、日常茶飯事なんですよ。東京にこれだけ大学病院や大病院があっても、われわれの健康はぜんぜん保証されていないのが現実です。
T先生
まったくですねえ。
K先生
この間たまたまクリニックの野球大会があったのですが、メンバーの一人が転んで骨折しちゃったんです。大学病院は目と鼻の先にあるのに受け入れてもらえません。病院側も訴訟が怖いから、「いま整形外科の先生がいません」なんていわれて断られてしまいます。あちこちに電話してやっと受入先を見つけましたが、夕方の5時に倒れてから、7時まで病院に受け入れてもらえませんでした。
N先生
医師不足の原因のひとつとして、患者さまがうるさくなったということはあるでしょうね。最近の患者さまはお客さま気分で、家族への説明も含めると時間が倍かかります。昔の人は、「あまり国に迷惑をかけてはならない」というお互いさま意識があったと思うのですが、いまは医療費はそのままで、医者も看護師も少ないのに、アメリカ並みの医療(?)と勘違いして、高級ホテル並みのサービスを望まれている状態ですから。日本全体のモラル低下が一番の原因のような気がします。
K先生
セカンドオピニオンというのも、医者が信用されていないということだし。それによって診療報酬が倍かかりますし。
T先生
それから地方も深刻ですね。弱小大学の医局は崩壊の危機にさらされていますから、そこから医者が派遣されている地方病院は医者が引き揚げられて、成り立たなくなっています。
K先生
だからますます、救急の患者を受け入れられないですよ。午前中だとまだましなのですが、午後は厳しいですね。
大学病院も無理してやっていることがわかっていますから、開業医としても無理に「受け入れてくれ」とはいいにくい状況です。個人的によく知っているところだと頼みたいのですが、
N先生
これはどうにもならないですよ……。
(インタビュー実施日 : 2007年6月20日 この記事は個人の感想によるものです。先生方のプライバシー保護のため匿名とし、属性についても内容に影響しない範囲で変えてあります。)



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