医師開業ノウハウ:「医療承継」傾向と対策

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image2辻・本郷 税理士法人:小山内好毅 先生
image3辻・本郷 税理士法人:栗岡秀公 医療事業部長

開業医の事業承継で起きる問題点

「開業医の親から子への医療承継であれば、新規開業よりも開業はずいぶん楽だろう」という思いこみは、もう過去の話です。最近では様々な環境の変化により、簡単にできるといった話ではなくなりつつあり、以下のような医療承継の深刻な問題点が出てきています。

親子で診療科目が違う

先代の大先生が内科で、若先生が整形外科であったりすると、医療機器を一新するような設備投資や内装工事が必要になります。これでは新規開業と必要資金が変わらないことになります。

家族の問題

若先生が都会の大学病院に勤務していて、大先生と若先生の間では「実家の医院を承継しよう」という話がまとまったとしても、子供の入学時期や嫁姑問題、兄弟のどちらが承継するのかといった家庭環境が大きな障害になって、最終的には承継をやめてしまうケースも少なくありません。個人的な感情の問題は、家族間では重要な問題なのです。

大先生の年齢の問題

若先生に病院を譲る大先生の平均年齢は70歳前後です。大先生が高齢になればなるほど患者さんが離れてしまうという傾向は否めません。そうすると、若先生が病院を継ぐにしても地域の患者さんはライバル医院に流れて行ってしまっています。

医療承継対策のスタートのタイミングとは

医院の信頼は現院長の長年の努力によって築かれたものです。とくに、後継者がこの医院に勤務してから期間が短い場合には、患者さんも現院長を頼ってやってくることかと思います。そのような時に、後継者に急にバトンタッチをすれば、患者さんがこれまでどおり来てくださるという保証はありません。事業承継には、それ相応のリスクが伴ってきます。
そこで、地域の患者さんや医師会などにも信頼の厚い現院長が院長の座に留まり、対外的にも表に立ちつつ、後継者は当初勤務医という立場で何年かの期間をかけて徐々に診療の主導権を後継者に移していくという方法もあります。後継者に対する地域の信頼が確かなものとなったときにタイミングを見計らって院長を交代すれば、事業承継に伴うリスクを最小限に抑えることができるでしょう。そのためにも事業承継対策には早めに取り組むことが重要といえます。

親族に承継させるケース

個人事業主の場合

個人事業主の承継ポイントは、診療所の土地、建物、医療機器を売却するのか、賃貸するのか、贈与するのかを必要経費や相続税対策の観点から検討する必要があります。

届出関係につきましては、税務署、社会保険事務所、保健所に開業及び廃業の届出をしなければなりません。

また、承継する時期を確認することも円滑に承継するために大切なポイントとなります。承継する側が勤務先を円満に辞めることができるのはいつなのか?

得たい医療技術はないのか?  ある場合はどのくらいの時間がかかるのか? 経営の実権をいつ子供に渡すのか?  などです。

万が一建物の建替えを検討する場合には、相続税対策の観点からは親の名義で建替えたほうが有利です。建物の相続税評価額は、固定資産税評価額を用いることとされており、それは建築価格の60%~70%程度が評価となるのが一般的なためです。親である旧院長が現預金をそのまま持っているよりも建物を建築すれば、評価額を下げることができます。

ただし、このような対策をする場合には、専門家に相談しながら実行することお勧めします。

医療法人の場合

医療法人の承継のポイントを説明する前に、第5次医療法改正の概要についての確認をします。平成19年4月1日以後に設立申請された持分のない(拠出型医療法人)医療法人については、解散の時の残余財産の帰属先が、国・地方公共団体等に限定することで医療法人の非営利性を明確にすることになりました。

平成19年3月31日以前に設立申請された持分のある医療法人(経過措置型医療法人)については、当分の間、残余財産の帰属は従来の取扱い、即ち、定款の定めに従って出資者に配分されるという取扱いが維持されます。

拠出型医療法人は、拠出型医療法人と基金拠出型医療法人とに分類されます。どちらの制度を採用するかは医療法人の選択になります。

拠出型医療法人に財産を拠出した場合には、拠出者に対しては財産が戻ってきません。そのため拠出した金銭等の資産についての相続税は課税されません。一方、基金拠出型医療法人に財産を拠出した場合には、一定の要件を満たせは拠出した財産等に相当する額の返還を受けることができます。

この返還を受けることができる基金は相続税の課税対象になります。この制度については、新しい制度であるため今回の医療承継のポイントの説明については、医療法改正前に設立された経過措置型医療法人についてお話をしていきます。

医療法人の承継のポイントはいつ理事長を変更するのか、経過措置型医療法人の場合には出資持分をどのように移していくのかいうことです。

理事長の変更にあたっては、法務局へ理事長の変更登記が必要です。理事長の変更登記が完了することで、対外的にも医療法人の代表者が変更したことになります。

経過措置型医療法人で開業されている方の場合、医院の財産は医療法人に帰属しますのでその医療法人に出資した持分を有することにより、医院の財産は医療法人を通じて間接的に所有していることになります。

従って、医療法人経営にかかわらない方に出資持分を持たせると、将来、出資持分の払い戻し請求権を行使されることもあります。理事長変更の際に整理し、後継者である子供に移転させる必要があります。

その場合には、医療法人の出資持分の評価が必要となりますので専門家に相談する必要があります。

相続時精算課税制度を利用した経過措置型医療法人の出資持分の移転について

経過措置型医療法人の出資持分については、相続時精算課税制度を使って承継する事も一つの対策になります。

相続時精算課税制度は次世代への早期の財産移転を目的とする制度です。この制度は、65歳以上の親が子に贈与する場合2,500万円までの特別控除があり、それを超える部分については一律20%の税率が課税されます。相続開始時には贈与によって移転した財産は相続財産に取り込まれ、それに対して支払った贈与税額は相続税の納付額から控除されるという仕組みになっています。

医療法人の出資持分は配当禁止規定によって評価額が年数の経過とともに大きくなる傾向にあります。長年にわたり黒字経営を続けた結果、理事長に相続が発生した場合、相続税の納税に苦労することも起こり得ます。

ポイントは、出資持分の贈与を行った場合には、贈与時の価格で相続税が計算されるということです。

将来出資持分の評価額が贈与時に比べて高くなっても高くなった部分については、相続税は課税されません。そのため現在の理事長先生に退職金等を支払うなどして評価額を下げたのちに後継者に贈与するという方法も一つの手段と考えられます。

しかしその逆に年々利益が減っているようなケースであれば、この制度を使うと不利になります。そのようなケースでは通常の暦年贈与(基礎控除が110万円)を行ったほうが良いということになります。

現在の理事長先生がまだ若くて、医院の規模がそれほど大きくないのであれば、長年にわたって徐々に医療法人の出資持分を譲渡していくというやり方もあります。どちらが有利かは、理事長先生の年齢や家族の置かれている状況によってケースバイケースです。

相続時精算課税制度又は暦年贈与については、現在の院長先生の資産の前渡しであるため、このことを原因として将来遺留分の侵害というトラブルが発生する可能性がありますのであらかじめ専門家に相談することをお勧めします(遺留分とは、相続人が法定相続分を侵されたとしても相続財産のうち一定割合を請求する権利をいいます)。

第三者に承継させるケース

後継者がいない医院の場合、廃院を検討せざるを得ない場面がありますが、医療機関は地域医療を支えている社会的公器という側面があり、廃院を選択した場合の影響は甚大なものになります。このような場合には、第三者に承継させることで、医療機関の存続を図り、引き続き地域医療への貢献が図れ、雇用も維持することが可能になります。
第三者に承継する場合価格をいくらにするかという問題が出てきますが基本的には、売り手と買い手が合意した価格ということになります。

その際、承継する個々の財産債務も考慮しますが財産のなかには、営業権という目に見えない資産があります。
営業権とは、いわゆる暖簾のことであり、その医院が他の同規模・同診療科目の医院と比較して、高い収益力を有する場合の、将来の超過収益力に対する対価を意味します。営業権の算定方法にはいろいろな考え方がありますが、必ずしも承継金額に含まれるものではありません。
経過措置型医療法人を第三者に承継する場合には、出資持分(引き渡す側が退社し、引き受ける側が入社(出資)する形式)を承継することになります。
出資者が退社する場合、出資持分の時価評価額を払戻請求することができます。  払い戻された金額(承継金額)から設立当初の出資金額を差し引いた金額は、配当所得とみなされ、総合課税の対象となります。
反対に譲り受ける側のポイントは、患者はその医院の経営状況、立地条件に将来性はあるかどうか、従業員の引継ぎはどうするのか、資金調達ができるのかどうか等も専門家を交えながら検討することが必要になります。
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医療承継は専門家への相談をお勧めします。



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