匿名ドクターインタビュー

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東京郊外透析クリニック院長

50歳を過ぎて勤務医を続けている自分の姿を想像できるか

私は4年前に東京郊外のこの地に透析センターを開院しました。この4年は本当に悪戦苦闘の連続でした。
何でこんな思いまでして開業しないといけないのかと何度いやになって逃げ出したくなったことか! でも一度開院したからには石の上にも3年といいますが、歯を食いしばってやってきたというのが本心です。まだまだ先は長いのですが、今回一応何とか3年の区切りをつけることができ一段落した所で自身を振り返るという意味も含めて、この体験をこれから独立へ向け準備されようとしている先生方への応援という気持ちでこのお話をお受けしました。文中にはやや誇張気味の箇所もありますが、すべてうそ偽りのない事実です。

さて開業へ至るまでのお話しを始めましょう。その前に……
若い医師の皆さんにぜひ考えてもらいたいのは、「50歳を過ぎて勤務医を続けている自分の姿を想像できるか」ということです。
医者は若いときは周囲からはちやほやされますが、やがて50歳を過ぎ人生のたそがれをむかえた時、果たしてどんなポジションにいれるか? めでたく大学教授や大病院の院長(公立病院)であれば周囲の人たちも尊敬してくれるでしょうが、今、流行の雇われ院長では経営者の意向に逆らえばいつクビを切られるかわかったものではありません。
大病院の部長でもうかうかしてられません。診療報酬が下がりっぱなしの現在、経営者からのプレッシャーは半端じゃないです。

私は常々思っておりましたが、医者にとっての究極の姿は「教授になるか開業するか」の2つしかありません。
もちろん教授は国立大学のそれですよね(ただし、今は国立大学の教授の価値もかつてとは雲泥の差です。新臨床研修制度が始まってからの教授の権威たるや、マッハ100の勢いで急降下です。人事権のない教授には何の魅力もありませんからね!)。または、開業してオーナー院長になる……極論するとこの2つしか医師にとっての自己実現の道はありません。
まじめにコツコツと研究業績を挙げている優秀な医者が、必ずしも教授になれないというケースは嫌というほど目にします。そういうわけで、教授への道はあまりにも狭く、険しいものがあります。50歳を過ぎいまだ大学に残り先が見えてきた時「自分はまちがったかもしれない?」と思い直してそれから急遽予定外の開業(これをやぶれかぶれ開業といいます。)をする先生もいますが皆さん苦戦します。

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外科医がメスを擱くとき

私は外科医としてメスを奮い都内の病院で外科部長をしていました。40を超えやっと落ち着きを持ちはじめ優秀な若手も育っていました。あるとき手術をしていて、突然老眼でよく見えなくなる瞬間があったのです。
前立ちから「先生、ココ!」と指摘されて事なきを得ましたが、眼鏡を何種類か作ってみても、うまくいきませんでした。齢45歳!
その時に「これは患者さんのためにもいけない」と思い、潔くメスを擱く決意をしました。特に外科医にはそう悟る瞬間が必ず来るものです。

50過ぎても60過ぎても中には70過ぎてメスにすがる醜い医師を沢山見てきましたが、患者にとって良いわけがありません。大体外科医の旬は35~45位だと思います。それ以上年をとると根気も気力も続きません(マスコミを賑わす天才脳外科医のF先生は例外中の例外です!)。それと、50過ぎてメスを擱き、さて内科をやろうと思っても回りからは外科で食いあぶれたと白い目でしかみられません。それならまだ40台のうちに次を考えようと決断しました。

幸い、私は人間関係をとても大事にしていましたから、いろんな方面から雇われ院長の話がありました。でも、先にも言いましたようにひも付きの院長ほど情けないものはありません。やはりオーナーシップを持った開業にこだわりました。
さて、紆余曲折の末、透析と出会い、これをその後の一生の生りあいとすることにしました。
漠然と開業を考えていても、いざ実行に移すとなると何をどこからどうやっていったらいいか皆目見当もつきませんでした。
幸い、人とのつながりは長い勤務医生活になかで豊富でしたから、色んな方々のアドバイスをいただき、大体1年くらいの準備期間をおくことになりました。準備期間中はとても勤務医を続けることはできません。しかし、生活はありますから勢いアルバイト生活となるわけです。
多くの仲介業者がいてしかもインターネットのおかげでまことにタイムリーに捜すことができました。 

MRTのアルバイトで食べていた開業前1年間

さて、開業準備には多くの業者との打ち合わせがあります。
ですからこの打ち合わせのスケジュールにあわせてその合間にバイトを入れました。MRTのシステムはこのような状況には打って付け!ほんとに助かりました。一番がんばった時は一ヶ月に当直も含めて60件はこなしました。
MRTのシステムのいいところはパソコンからも携帯からも簡単にアクセスできますし、突然のキャンセルにもルールに則って対応してくれます。ほかにも似たような紹介会社はありましたが、いい加減で怪しげな会社もありました。
やはりMRTは経営者が医師であるところが強みでしょうか。

余談ですが、東京都内から近郊までいろいろな病院に行きました。
またバイト先でもいろんな先生に会ってとても勉強になりました。
私と同じように開業の志を持って一時のバイト生活のはずがそのままずるずるとぬるま湯に浸り堕落しきった医師たちも沢山見ました。「あー、こうなってはいけない」と気を引き締めました。バイトは報酬もいいし責任もないしほんとにおいしいものです。ただ、しっかりとしたホームグランドを持って空いた研究日とか、留学準備のほんの一時程度ならいいですがこれを絶対に本業にしてはいけません。自らのキャリアーを汚すことになり全くスキルアップできません。
今は勤務医不足で需要は多いですが需給バランスはいつ崩れるかわかりません。

蛇足ですが新臨床研修制度がスタートし、旧来の医局講座制が崩壊してこういうバイト生活で全くスキルアップ出来ない医師たちが増えたような気がします。日本の医療にとっては誠に大きな損失です。かつての医局講座制にもいろんな弊害もありましたが少なくともこのような堕落した医師たちはあまり見かけませんでした。

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自己資金ゼロからのスタート

さて本題に戻りましょう。
かつては病院勤務を終えてすぐ開業しても患者さんがどんどん来てくれるという幸せな時代がありました。
今やそんな甘い開業は親の後を継ぐ以外はまずありません。
私は自己資金はほとんどゼロで開業にこぎ着けました。銀行も今時いくら医者でもかつてのように、簡単にはお金を貸してくれません。私は開業するときに、自分でしっかりした事業計画書を作りました。
あとでまた詳しく融資のお話しはしますが、例えばひとりの患者さんが来た時にどれだけの収入がありどの程度のコストがかかるかをシュミレーションし、将来的にどのように推移するかを計算してきちんと見せたわけです。銀行の査定はとにかく厳しいです。

某都市銀行は、審査のときに医療機関専門の会計事務所の開業医担当者を面接に連れてきました。
1時間くらいの面接を受け、人物査定をされるわけです。銀行は自分たちとは独立した専門機関の評価に従って、その先生が本当に開業して成功するのかどうかの助言を受けるわけです。

評価項目は資金計画だけではなく、事業者としてどうか、この医者の人間性はどうか、資産状況はどうか、家族構成はどうか(因みに独身者はそれだけで退場)。ちゃんとスタッフをまとめるリーダシップがあるか、患者さんに丁寧に応対できるか、将来設計に問題はないかなど。20項目以上に上ります。
後日ABC評価が下され銀行の審査部に届くわけです。
幸い、私の場合はほとんどAをいただき、その銀行でも過去最高の評価だったと聞いています。
それに基づいて開院に必要な借り入れと、リース枠が可能となりました。これらを機械の購入と工事費に当てました。
これでも私は、普通の透析クリニックの開業に比べればかなり開業費用を抑さえました。

また、最近の開業にはコンサルタントと称して開業の一切を仕切ってくれる連中が寄ってきます。
普通この手のコンサルはリース業者から薬屋から一切合財を仕切ります。便利だと思って、私もお任せで行きかけたのですが、私は一々それぞれの業者に後から必ず電話なりで進捗状況の概要を聞きました(普通はこんなことはしませんが……)。何せお任せはとても不安で不安で(私は根はとても小心者です)、また少しでも安く上げたいこちらとしてはいわれるままに「あーそーですか?」というわけにはいきません。

そうこうしているうちにこの怪しげなコンサル連中の悪事がボロボロと出てきたのです(とにかく言ってることとやってることの違いと、いい加減さには呆れました)。それで、コンサルを入れるのは一切止めにし全てを自分でやることにしました。
コンサルほどいい加減でペテン師じみた連中はいません。あんな連中に半ばだまされた形で開業し半年もしないうちに立ち行かなくなり泣く泣くクリニックを手放し、後に膨大な借金を残した例は枚挙に暇がありません。でもそれは自業自得です。責任は自分です。こまごまとした雑事を自分でやらない限りあの連中に簡単に付け込まれます。誠に言葉巧みです。
もし利用するなら彼らと同じ知識を持ってないと渡り合えるものではありません。また、渡り合えるくらいの知識があればそもそもコンサルなど必要ありません。暗中模索しながらも、自分で交渉するうちにとにかく鍛えられいろんな仕組みを学ぶことができました。

これから開業を目指す方にぜひとも知っていただきたいのは、全てを把握し決して面倒くさがらないということです。
たくさんの交渉の中で多くの知識がつき、それがひいては自分を守ってくれるのです。実印を押したが最後、気がついたときには後の祭りです。彼らコンサルはペテン師集団の集まりです。絶対に利用してはいけません(但し、話を聞くだけならタダですから聞くだけはいいですが……)。
また、さまざまな人々がどこからかうわさを聞きつけ揉みてすり手で寄ってきます。何度も言いますが面倒くささにかまけて、だまされてしまうドクターはほんとに多いです。用心に用心を重ねなければなりません。

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それでも、薬屋に数百万円やられました

建物や機械もやっと目途がつき最後に一番肝心な透析液や薬の供給です。
最近は新規開業のクリニックにはなかなか薬の卸が入ってくれない傾向にあります。
病院に勤務しているときは薬屋さんは呼べば来てくれるものでした、ところが、開業に際しては「やれ保証人を立てろ、保証金を入れろ」ととても高圧的です。最近では経営が立ち行かなくて夜逃げする開業医もいるくらいですから、薬品卸も必死なのでしょう。

わたしのクリニックも開業日までにちゃんと薬が入るかどうかわからないという状況になってしまいました。
困っていたら、以前にちょっと知り合った薬局を経営していた人物が「院外薬局をやらせてくれ」と言ってきたので、渡りに船とばかり一時的に透析関係の液物も入れてもらったわけです。その時「補償金が底をついたので数百万円貸してほしい」と言われたんです。土地持ちの資産家の息子さんだと聞いていたし、私にとってはとても自然な流れだったので何ら疑うことはありませんでした。うかつにも口約束だけで貸してしまったのです。オープンもほぼ目処が立ち一瞬の気のゆるみがあったのでしょうか?
その後やっと卸の会社もみつかり安定的に薬も納入されました。

さて件の薬局経営者に一時貸すだけという約束だった補償金を「返してくれ」といっても返してくれません。しまいには、「あれはもらったものだ」と言い出しました。こちらも、泣き寝入りなんかできませんから、激しいやり取りの末、裁判を起こしました。
こちらの言い分は当然ながら100%認められました。が、その薬局はついに自己破産してしまいました。破産管財人からは数パーセントしか戻りませんでした。弁護士費用は私の負担ですから大赤字です。後から聞いてみると、彼はいろんな医者に開業時にくっついて同じようにだまして甘い汁を吸っていたようです。

人任せにしてはダメ、自分でやるしかない

うちは透析クリニックなので機械が高いのですが、始めの業者の見積もりが最終的に半値以下。
おそらくコンサルはこの機械のリースで巧妙にかなりの抜きをやるのでしょう。
業者のいいなりになっていてはだめ。業者も一社に一任は絶対にだめです。自分でひとつひとつ合い見積をとって交渉する以外に、被害を防ぐ方法はありません。とにかく人任せにしてはダメです。特に怪しいコンサルタントには気をつけてください。というか先ほども申しましたが、医療系のコンサルタントはすべて怪しいと思ったほうがいいでしょう。

コンサルにお任せでやると最低でも2000~3000万は普通に抜かれます。
私の知り合いの先生は「万事よろしく」で1億近くをふんだくられました。その抜き方はまことに巧妙で合法的です。
よく言われますが、医師は人間を見る目がとても甘いのです。若い頃から「先生、先生」と周りからおだてられ、スタッフも患者さんも医師にとってみればみんな「ハイハイ」と言うことを聞いてくれるイエスマンばかりです。
考えてみれば、銀行員や商社マンのようきわどい仕事をやっている人種と付き合うことはせいぜい家を買うときくらいです。医者はお金が絡む厳しい世界を知らずに、何でも物事を善意にとらえます。

彼らコンサルに言わせれば「医者をだますのは赤子の手をひねるより簡単」なのです。
そして、私にあたったコンサルがたまたま性質が悪かったのか? いいえ違います。私はコンサルで開業した先生方にしつこく聞きだしました。その重い口からは皆一様に痛い目に会った悲しい経験が語られました。ではなぜ表に出ないか? それは開業はほとんどの先生にとって一生に一度で、「もうこれっきりだからいいや」という諦めと、やはり自分の恥を晒すのはみなさんプライドが許さないのです。例えば、株で大失敗しても絶対に口外しないのと同じです。

私は開業に至る一連の経験で本当に勉強させられました。
「世の中にこんなにとんでもない人種がいるのか?」と! とにかく人間を見る眼が以前に比べ数段鍛えられました。

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開業医の最大の課題=医療と経営の両立

開業医は経営者として勉強をしなければなりません。税理士とも毎月会って、貸借対照表などから勉強です。
また、開業をする前に想像していたよりも税金などいろいろ持っていかれるお金が多いでのす。とにかく勤務医時代のようにただ患者だけを相手にしていればいいのとは全く違います。

また、開業の最大の課題は集患でしょう。立ち上がりは幸い、前の施設から7、8人の患者さんが来てくれました。
このあたりは透析激戦区です。以前、提携していた病院も最近はサテライト透析施設をつくっていますから、なかなか患者さんを回してもらえません。でも、クリニックの選択は患者さんが行うわけですから、とにかく口コミで患者さんに来てもらうしかありません。 
患者さんをいかに増やすかが一番の課題です。やはり今はホームページです。最近の患者さんはまずインターネットを見てこられます。また、遠方から仕事や旅行に来たときに、「ビジターでかかりたい」と来られる患者さんもいらっしゃいます。
立て看板や雑誌広告はこと透析に関しては全くだめ。最初出した看板は全て契約を解除しました。

それから大切なのは、高次医療機関の先生とのネットワークづくりです。合併症を安心して紹介できる有能な医師をどれだけたくさん知っているかが透析クリニックの生命線です。透析医療は身体のメンテナンスが命なのです。透析医はそれらをコーデイネートする立場にあるのです。高次医療機関の先生との連携はクリニックの生命線です。

以上いろいろ述べましたが最後にまとめです

これからの開業はとても厳しいです。特に都市部の開業はどこもほぼ飽和状態です。
よほどの勝算をもってやらない限り成功はあり得ません。
首都圏始め3大都市圏でいま流行りの医療モールへの落下傘開業は全てがだめとは言いませんが
よほど吟味し、十分な下調べをした上でやらないととんだ物件をつかまされます。
私が思うに、国は医療費削減のターゲットを開業医に絞り開業医を本気で潰しにかかってます。医師会はもう全く無力です。再診料がついに病院と同じになったのを見ても明らかです。地域医療加算など新たに設けたりしてますが、これは過重労働を勤務医から開業医にシフトしているに過ぎません。国は国民のための医療制度改革なんか本気で考えてはいません。とにかくお金がないのです、何とか経費削減をしようと必死なのです。そのターゲットは医療費、特に開業医のコスト削減と言っても過言ではありません。
さて次にお金のこと!
開業に際して痛感したのが、医療界にはどれほどの怪しげな連中が跋扈しているかということです、彼らは特に開業を聞きつけるや雨後の竹の子のように寄ってきます。しかもそのほとんどが、手練手管で濡れ手に粟をもくろんできます。相手は赤子の手をひねるより簡単にだませる医者です。何度も言いますが、付け込まれる原因はわれわれ医師側にあります。面倒くさがってすべてを丸投げしてしまうと徹底的に付け込まれます。とにかく一つ一つを自分で確かめつつやっていかない限りこの手の被害はこれからも絶対になくなりません。
最後の最後にもうひとつ、一番大切なスタッフのこと。
透析はその性質上コメデイカルがとても重要です。透析時間の90%以上を医師以外のスタッフが対応します。いわゆる透析室を仕切ってくれる熟練のスタッフです。穿刺から始まって返血までの4時間をいかにうまく乗り切るか! 透析患者さんはいろんな意味でとても大変です。そんな大変な患者たちをうまく……言葉は悪いですが丸め込んでくれる熟練の現場の指導者の存在なくしては透析センターはやっていけません。幸い私はすばらしいスタッフに恵まれました。資金も大事ですが、やはり最後は人です。究極のサービス業である医療は、最後はいかによき人材を得るかにかかっているのです。
(インタビュー実施日 : 2010年3月10日 この記事は個人の感想によるものです。先生方のプライバシー保護のため匿名とし、属性についても内容に影響しない範囲で変えてあります。)



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