スーパードクターのぼやき

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慶友銀座クリニック院長
http://www.ginzaclinic.com/
大場俊彦先生

テレビに出てもほとんど意味はなかった

05年秋の開業以来、新聞雑誌に加えてワイドショーなどテレビ番組の取材を10回以上受けてきました。いびきの日帰り手術については、「これが世界のスーパードクター」といったゴールデンタイムの番組でも紹介していただきました。09年秋には「ワシントンポスト」紙の1面記事の取材まで受けて、写真付きで報道されました。

取材依頼が来る理由は、都心で開業したということに尽きると思います。
地方には私よりもパワフルで経験のある先生はいらっしゃいますが、みなさん自分が最後に勤めた病院の近くに開業するのが普通です。私の場合はたまたま最後に勤めたのが港区の病院だったので、病院に近い都心で開業することになったという偶然によってテレビに出る機会が多くなったというような気がします。

いびきの手術については、この手術は手間がかかるうえに、機械が高価で、手術用の電気メスもとんでもなく高額で、利益がとても低いのですが、患者さんのために まじめにコツコツとやってきたのが、評価されたようです。神様からの贈り物と思っています。昔はこのような手術は、大病院でやったものでした。それは機械もメスもほとんどメーカーがサービスしてくれたからです。今はそんな時代ではなく、病院も購入となると二の足を踏む時代です。ですから私のような個人クリニックが採算を考えずにやるような時代になりました。

「テレビに出てみた感想は」と聞かれますと、私は芸能人ではないド素人ですから、自分が出た番組は恥ずかしくて見れないです。スタジオでない取材ではメイクもしてもらえませんし、だいたい診療が終わって夕方に取材班がやってきますから疲れ切った表情で出演することになります。ヒゲはボーボーだし、耳鼻科ですからヘッドバンドで髪の毛はバサバサだし、自分の疲れた顔は自分で見たくありません。

正直申し上げますと、テレビに出ても患者さんの反応はほとんどありません。このあたりの患者さんは、マスコミや広告代理店の人が多いので、テレビに出てそれでどうなのという感じですし、テレビに出ても患者さんが増えるということはありません。沖縄や北海道といった遠方からテレビを見てわざわざ訪ねてこられる方はいらっしゃいますが、手術をご希望の場合はフォローアップが難しいためお断りすることも多く大変心苦しい思いをしています。

特に耳鼻科の場合は耳や鼻ですから、手術直後に飛行機に乗ると悪化することがあります。ホームページに「飛行機には乗らないでください」と書いたら、芸能人は一切来なくなりましたね。

医療関係者にはテレビに出たからといって評価してもらえるわけではありませんし、ファミリーレストランで子供たちと食事をしていて、「テレビに出ていたセンセイですよね」とお客さんに言われたりしますが、他人に顔を覚えられても得することはありません。

「バラエティー番組に出演してほしい」と依頼されたこともあるのですが、診療が終わった疲れ切った後の撮影になりますから、お断りしてしまいました。収録に参加しても翌日の診療に差し障りがあるだけです。開業医の場合は、テレビに出たからといって何のステップアップにもなりません。弁護士の先生方は違うかもしれませんが……

テレビに出て唯一良かったのは、子供たちが見て父親が仕事をしている姿が分かるのと、田舎にいる両親に喜んでもらえることくらいです。「NHKのど自慢」に出て、「田舎のお父さんお母さん元気ですかぁ」と言っているのとあまり変わらない感じがします。そこで全国放送なのかどうか聞くのですが、私の田舎の大分県ではテレビ局の数が少ないので放送していない番組の取材だったりすることも少なくありません(笑)。

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ゴールデンタイムのテレビにも出ましたが……

開業医は大学病院のブランドには勝てない

当院は1日に150~200人超の患者さんをお迎えしています。午前中にだいたい60人から80人くらいの患者さんを私一人で診ます。しかし、この状況はいつ変化するかもわからないという不安と日々闘っています。なぜなら、 医療情勢は刻々と変化してきていますし、大体開業前の調査で、この地域は1日80人が限度だと言われました。これだと家賃もここら辺はとても高いので、ほんとぎりぎりです。実際診療していると、いっぱい患者さんが来院しても、全日、私以外の代診の先生で診療すれば、1日50人切ってしまうなというのは肌でわかります。

治療方法も当院はあくまでも耳鼻咽喉科としてスタンダードな診療をこころがけているので、そんなに違いがあるわけでもなく、保険診療を中心にやっていてたまたま患者さんに多く来ていただけているだけなのです。患者さんが増えている理由は、私にはよくわかりません。特別なことをしているわけではないんです。それだけに、いつ患者さんが減るかは分からないということになります。

開業前に勤めていた病院から患者さんを連れてきたわけでもありません。開業前は個人情報保護がうるさくいわれはじめたころで、せいぜい2、3人です。開業直前は、僕の外来診察のとき、僕がどこで開業するかとか患者さんに言わないように婦長さんがノートを持って横で見張っていましたね。一般開業で「患者さんをゾロゾロ引き連れて」ということはもう考えられません。患者さんは先生個人よりも病院のブランドの方を見ているので、そこをあまり期待するのはよくないでしょう。

開業医は、大学のブランドには勝てません。ブランド構築ができないところで開業医として成功するためには、提供するサービスのレベルの決定と、それに付随した立地と幸運が一番大切なのではないかと思います。

耳鼻科の中での話ですが、この科は病院と開業の診療とは全く違います。開業では、子供を中心に処置を基にしたものになります。実はこれがとても利益率がいいです。病院は診断と手術を含めた治療が中心となります。私は、なんとか病院レベルの診療を、開業することで患者さんに提供できないかと考えました。

簡単な考えのようですが、雇われ院長は別にして、個人的に多額の借金をして自分で開業するには、まず成功例を引用するものです。私の提供したいサービスが、この地には合っていると思いました。でも本当に患者さんがきてくれるかは、開業当時は変な自信がありましたが、今となるとぞっとします。なんとかやっていけている今があるのは幸運しかありえません。

成功には理由はないけれど、失敗には理由があります。
私はこれまで、医療機器についての自分のアイデアの企業化なども含めて失敗をしてきました。ニューヨークのIBMワトソン研究所で自分のつくったマシンを発表した後に、カリフォルニアのシリコンバレーに機械の売り込みに一人で行って、そのあとすぐに日本で手術をするというような、アメリカ人でも気が狂っているといわれているようなことをしてきました。このことをしゃべると、名だたるシリコンバレーのパソコンおたくも引いていましたね。

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医療機器についての自分のアイデアの企業化なども含めて失敗をしてきました。

わたしはアメリカにいたときは「ナース・ステーションのアントレプレナー」と言われていました。日本では手術をした後、夜中看護師室で患者さんの様態を見ながら、機会の発明をしていたからです。夜中にリハビリ室で自分の機械をつけて実験していたら、ガードマンに間違って通報されそうになったこともあります。とってもがんばりましたが、クリアーすればするほど多くの壁があり、不毛でした。 その失敗の理由を知っているだけに、今の状態がいつまでも続くとは単純に信じていないわけです。

診療上で常に心がけていることの第一は、当院は耳鼻科なのですが、腫瘍の患者さんがとても多いです。ですから腫瘍を見逃さないことが第一です。当院にはまったく初診の新患が毎日20人くらい来られます(再初診で100人くらいです)。

初診の患者さんの場合は当院のスタッフが細かく患者さんの問診をします。午後は二診または三診体制にしています。腫瘍専門の先生にもお越しいただいていますから、問題のある患者さんの場合には複数のドクターで見逃しなく診断して高度医療に対応する病院にご紹介するようにして、リスクを減らしているわけです。

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